劇場

街を歩く。僕は呟く。「退屈だ」と。
すれ違う人たちはみんな、吸い込まれるように下を向いて、
僕の姿には目も暮れない。
呟いた言葉なんて、喧騒にかき乱され
自分の耳にも届かない。


自分の声が聞こえなくなったのは、ちょうどこの街に出てきてからだ。
周りの人の声ばかり聞こえて、周りの音ばかり聞こえて
少し取り乱したこともある。


どれだけこえを荒げても、どれだけ声を届けようとしても
自分の耳には届かない。聞こえるのは罵声のみ。



僕は世界に生きていない。




そんな時、ある光景が目に飛び込んできた。
劇場を移す1台のテレビ。何気なく家電量販店にいた時だ。
足を止め、吸い込まれるように上を向いた。


「僕の世界はここだ」



それからは早かった。劇場に向かい
稽古を取り付け、血の滲むような努力をした。
舞台では、自分の声が聞こえる。
舞台では、自分の声が誰かに届く。

みんなが、私に吸い込まれる。




僕は僕の世界に出会えた。




そして決意した。








世界を見つけられない誰かのために
僕が誰かの世界になろうと。